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Posted by ミリタリーブログ at

2013年12月07日

ウィケ波J太郎 食卓の情景2

薄紙を剥ぐように秋の穏やかさが失われていく。冬である。
ひとり街を歩き、公園で子供達が唐揚げでキャッチボールをしているのをみ、
「このような光景が未だに見れるとは…」と驚嘆せざるを得ない。

まさに「心強い!」の一言に尽きるのである。

そのことについては、これから折にふれて書くことになるだろう。

そもそもピッチャーフライやらキャッチャーフライといった語源が
「唐揚げを掴む」ことからきているのだが、果たしてどれだけの人間が
そのことを知っているのだろうか。おそらくぼくだけだろうね。今思いついたのだから…

亡き師、長谷川伸氏が

「J太郎くん、今日はバッティングセンターで時速140キロの唐揚げを打ったよ」と
よく私に話したものである。思えば師も、唐揚げが大の好物であった。
師と2人で深川のバッティングセンターに通いつめ、監視員の目を盗んでは
総菜屋で買い占めた唐揚げをピッチングマシンに押し込んだものだった。

「腰が入っていないんだよJ太郎くんは。鳥のモモを迎え撃つんだから腰を入れなきゃ」

生前の師の暖かき言葉を受けた当時のことを思い出す度に、
思わず目から熱いものが吹き零れそうになる。まぁ長谷川伸氏とは一切面識がないのだが。

木製のバットで迎え打つその姿はまさに「打っても悲惨、外しても悲惨」といったところだろう。
唐揚げに含まれる油が木製バットに染込むのはあまりにも酷だということで
高校野球までは金属バットを使用することになったわけだが、これも自然の流れだろうね。

それはさておき…

私の父の趣味が「料理」であったことは「杖と長脇差」の一遍で既に述べたような気がしたが、
実際そのような小説を書いた記憶がないのでこれは明らかにデマだろうね。

嘘の中に真を見つけるのが政(まつりごと)である。
前述の小説そのものはデマではあるが、実際、父の趣味は料理そのものであった。
大分年季の入った料理本を片手に台所に向かう父の後姿は普段のそれとはまるで違う。
まるでいいところなしの人間であったが、唯一料理の腕に関してのみ非凡であったと思う。

先にも述べたように趣味とはいえ腕のほうはなかなかのもので、
腕によりをかけたおおぶりの干瓢巻きのロールキャベツが食卓に並ぶと私は喜んだものだった。
一口大に箸で切り分け、口にゆっくりと運ぶ。なかなかにうまい。
当時5歳であったが、幼少期の感動の記憶は25年以上経った今もなお薄れることはない。

その中でも父が作った「唐揚げ」なぞは辺りの総菜屋のものよりもうまかった。
生姜を摩り下ろしているときの父の顔は真剣そのもので、このような表情は
まさに唐揚げを作っているときにしか見られないものであった。
この時のことは「鶏冠色狂い」という短編に書いた。


夜兎の捨蔵が2年前に行き倒れていたあの山道で、
四対一の決闘が泥しぶきをあげてはじまっていた。

松前藩の四名の討手が、ついに平田新之助を見つけ出したのである。
新之助は両刀を腰に差していたが、身なりはニワトリの着ぐるみ姿であった。
しかし、強い。

武士として、人としての将来を絶たれたニワトリの捨身わざに、
既に二人の討手の顔が切り割られ戦闘不能となった。

「ええい!畜生め!」

わめき声をあげながら出鱈目に刀を振る鈴木要蔵の腹部を
新之助はすくい上げるように切り払った。

「畜生とは笑わせる!俺はニワトリだ!怖いものなぞあるものか!」

血みどろになって転げまわる鈴木を見、新之助はまるで獣のように声をあげ、
残る一人の金田善郎に敢然と飛び掛かりめったやたらに斬った。

金田が動かなくなると、新之助は4名の死体を山道から外れた林の中に埋めてしまった。
ニワトリの着ぐるみは四名の返り血を浴び、もはや白を残してはいない。

「こうなってしまっては、あとは卵を産むのみ」

新之助はそう呟き、煙のような雨の中で双眸を閉じ、その場に立ち尽くしていた。
辺りの決闘の血が雨で洗い流されてしまったとき、新之助の姿はもうどこにも見えなかった。


弱虫のたとえでチキンとよくいうが、それは間違った認識だと僕は思う。
当時の武士は脱藩するとニワトリの格好をするのが常識だった。
討手にしてみればこれほどわかりやすい得物はない。
「いつ首をとられてもよい」という死に装束のようなものだから、
逆を言えば着ている方としては常に死を意識していたわけだ。

今の時代の男には少しもそういうものが見受けられない。烏合の衆どころか
一介のニワトリにもなれないんだ。これはあまりに哀しすぎるね。  


Posted by ダブルジェイ at 23:33Comments(2)